かつて一般国道 2号岡山バイパス工事に伴い、この近辺に楢原古墳群及び浅川古墳群が存在するため、岡山県教育委員会が記録保存のための発掘調査を委託実施しました。調査によりベンガラを塗った人骨などが出土しています。当時の人々は、どのようにして鉱物から顔料を抽出していたのでしょうか。この時代、すでに顔料に様々な効能があることを知っていたことに驚きを隠せません。

淺川3号墳(岡山県岡山市東区淺川)発掘調査のおりに、赤く塗られた頭蓋骨が埋葬されているのが発見されました。赤く塗られたそれは「朱」です。

人骨は、 2個置かれた枕石の間の鮮やかな朱色に染まった頭骨をはじめ、全身がほの赤く染まっている。赤色顔料は、構築している石棺の内面や床面にも認められ、特に頭部近くの蓋石等は鮮やかである。

埋葬人骨は、壮年前半の男性である所見を得ている。また、埋葬人骨を赤く染めている赤色顔料は分析の結果、水銀朱と確認されている。

淺川3号墳人骨


出典・引用  岡山県埋蔵文化財発掘調査報告123




現在の我々の生活の中で「朱」といえば、一番馴染みがあるのが朱肉です。朱の原料は、辰砂しんしゃという天然から産出される硫化水銀化合物を含んだ赤い鉱石(HgS)のことで、歴史はかなり古く縄文時代頃から採掘が行われていたようです。


かつて昭和を代表する常備薬で、家庭の薬箱には必ず入っていた通称赤チンという傷薬。赤いヨードチンキを短く読んでいたようですが、懐しい方もおられるのではないでしょうか。平成29年に水銀に関する水俣条約が発効されたため、2020年12月をもって国内での製造は終了しています。


ベンガラも辰砂も共に赤色をしていますが、ベンガラは酸化第二鉄(Fe₂O₃)、辰砂は硫化水銀(HgS)です。
また、辰砂とベンガラは同じ赤色の顔料ですが、辰砂は限られた場所でしか採れないのに対し、ベンガラは比較的どこででも採取出来たので、多く用いられていたと考えられます。


埋葬の儀礼として水銀朱(辰砂)やベンガラが使われていたのは、赤い色は呪術的に神聖視されていた為です。埋葬者や木棺などに使用することにより、防腐効果もあると考えていたと思われます。

疑問としては、
・鉱石からどのようにして効能を発見したのか
・それらの鉱石を採掘し、抽出するためにどのような作業をしたのか
・どのようにして保存していたのか

現代でも難しいと考えられる作業を道具も満足になかった時代にどのように行なっていたのか、当時の人々に聞いてみたいものです。




※(注)焼き物に使われる「辰砂釉」も赤色だが水銀ではなく銅を含んだ釉薬で、還元焼成すると赤色になり鉱物の辰砂とは違うもの。鉱物の辰砂に色が似ていた為に「辰砂釉」とよばれるようになった。